どこの会社でも行っている従業員の評価を少しだけ整理して、だれもが真似できるものとしての「人事評価」。
この「人事評価」を実際に活用する場面は、「給与」です。
「給与」の決め方に明確なルールを定めるのは、簡単なことではありませんが、「人事評価」と「給与」を連動させることで実現することができます。
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◆人事評価の基準と評価の実施
◆元気が出る人事評価と賃金
給与の決め方を考える3つのポイント
①業績の維持、拡大に貢献すること。
できる人には多く、そうでない人にはそれなりに給与を払うことで費用の削減を実現し、収益の増加につなげるということです。
②適材適所が実現できること。
給与を決める時の基準をちゃんと定めることで、人材をそれぞれが適した職務に配置することができるようになることで、従業員の満足度もあがることが期待できます。
③人材の育成、活性化を実現すること。
給与を決める時に、なぜそうなったのかを説明できるようになることで、評価された従業員の自発的な作業効率の改善や積極的な取り組みがうまれることが期待できます。
ここで挙げた三つのポイントで重要なことは、給与の決め方によって生まれる利益こそが、会社と従業員を守るということです。
給与の決め方を制度化する目的の明確化
ここから具体的な制度の設計にとりかかっていきます。
最初のステップは、目的を明確にすることです。
さらに、目的の達成をより具体化するために、短期→中期→長期に分けて考えてみます。
短期の目的
できる限り、会社の利益に貢献するものでなければなりません。
すなわち、能力に見合った報酬を設定すること、責任と実績を報酬に反映させること、そして残業時間の削減です。
一見すると報酬が増える話ばかりに見えるかもしれませんが、能力が不十分であったり、責任が果たせなければ報酬は下がるということがポイントです。
中期の目的
短期の目的を達成した結果生じる課題、具体的には、離職率の改善、特に優秀な人材を失わないようにすることです。
長期の目的
離職率が改善した結果、退職を迎える方に準備する退職金を給与と同様に能力、職務、業績と関連づけてコントロールすることです。
常に意識する目的
・経営陣の変動や時の流れに左右されずに、人件費のコントロールができること。
・時の経過に合わせて、欲しい従業員が採用できること。
・従業員が常に最適な状況に配置されていることです。
給与の現状を分析する
目的が明確になってきたところで、次に現状の分析を行います。
賃金プロット分析
この分析で注意すべきポイントは、現在の給料がどのような状況になっているかを確認することです。
また、職務ごとに見ることで、職務間の給与格差を確認します。
職務別のプロット分析
職務段階ごとに設定されているはずの給与に逆転現象が生じていないかどうかを確認します。
従業員動態分析
この分析は、制度の将来性を考える上で欠かせない分析で、従業員の年齢構成、勤続年数を分析します。
この分析では、5年後、10年後の年齢構成を確認して、これから設計する制度が、将来も健全性を保てるものとなるようにします。
また、定年退職までの勤続年数を確認することで、おおまかな退職金のレンジをイメージする基準とします。
職務等級の設計
目的の明確化と現状分析ができたならば、次は人事評価制度で最も重要な、等級の設計にかかります。
人事評価の原則を考えれば、必要な職務階層は、3つです。
・経営層・・・資本を効率よく運用する職務、すなわち会社の方向性を定め意思決定を行う、経営者を含む階層。
・管理層・・・経営層が決定した意志に従って、業務を運営する階層。
・一般層・・・指示された業務を遂行する階層。
職務等級と階層
経営者層
一般的に人事評価を考える場合、経営層を除外して考えがちですが、ここでは代表取締役、取締役といった会社法上の役員は除いて、
取締役でない、業務執行役員については、評価の対象に含めるようにします。
管理職
現在の職務、たとえば部長、課長といった肩書きを前提にするのではなく、明確な責任と求められる技量を課した上で、職務を決定します。
現在の職務を前提した場合の問題点
・過去の基準があいまいだった場合には、不適切な人材が残ることになる。
・現在の役職にこだわると、責任が不明瞭になってしまうような場合が考えられる。
例)同一役職をなくすという目的のためだけに、本来責任を負うべき役職と名目上の役職を兼務することになってしまう、というような事態が考えらる。
管理職は2階層が基本
この2階層は、一定の範囲で業務を統括管理する必要があるかどうかという観点から整理します。
例)統括部門と下位に区分したり、統括管理が困難、あるいは必要ない場合は、部下のいない専門部門とすることも考えられます。
一般職
一般職の場合には、従業員の大半がここに含まれることになるため、モチベーションを保つためにも、業務をこなす一般職と管理職を目指す、上級一般職の2階層に区分します。
注意すべきポイント
等級をこのように職務だけで評価してしまうと、その職務に固執してしまうあまり、本来求められる行動が伴わなく可能性があります。
そこで、これら職務等級とは別に、行動を評価する等級との併用方式が望まれます。
行動等級と階層
職務等級が、会社が期待する責任や技量によって決まる等級であるのに対して、行動を評価する行動等級とは、実際に発揮しているその人の行動を評価する等級のことです。
この行動等級を導入すると、職務における、とるべき行動の指標が明確になることで、業務のスムーズな遂行、効率化が期待できます。
この場合、職務等級フレームでは、一般職は明確な責任を負わせられないレベルと考えて、等級の振り分けは行いません。
行動等級フレームの設定例
行動の定義は、従業員が納得することが重要ですので、できるだけ分かり易く定義する必要があります。
定義の基準となる項目
各行動等級に共通の基準(それぞれの立場において)
・リーダーシップ
・部下の育成
・意思決定力
・他者との協力体制
それぞれの等級に特に求められる基準
スタッフ・・・学習する力
スタッフをまとめるリーダー・・・会社へ貢献する力
マネージャー・・・部下や後輩への指導力
ゼネラルマネージャー・・・知識や経験からの創造力
実際には、各会社の状況にあてはめて、より具体的で納得性のある基準にしていくことになります。
そして、これら二つの評価基準を併用した等級フレームを作り、行動等級と職務等級には、それぞれ対応した関係をもたせることで、抜擢、昇格を実現するしくみが作れます。
行動等級の給与レンジの設定
目的、等級の設定が完了すると、いよいよ給与を設定していくことになります。まず基本の仕組みとしては、行動等級ごとの給与の上限と下限を設定します。
この上下の幅を給与レンジと呼びます。
給与レンジの設定例
設定のポイント
①給与レンジは、行動等級ごとに重ならない
重ならないことによって、従業員には、上のレンジにいきたいという意欲を与える結果になることが予想されます。
②給与レンジの金額をコントロール
給与レンジは任意の金額を設定することになるので、この給与レンジの金額をコントロールすることで、事業計画における人件費の推移などの予測にも役立てることが可能になります。
※現実の現場においては、現状の給与を引下げることが困難であることも、予想されるため、そのような場合には、一部重複する状態を一時的に容認し、5年以内程度で重複がなくなるように調整する必要があります。
職務等級の職務給の設定
職務等級の職務給にかんしては、給与レンジをもうけるのではなく、定額にします。
その理由としては、二つの等級に二つのレンジを設定してしまうと、運用が難しくなるだけではなく、給与の納得性を維持することが難しくなるからです。
その上で、各職等級に割り振る給与ですが、一番下の等級に関しては、残業代の出る一般職と逆転してしまわないようにするため、最低でも5万円以上に設定することが望ましいと考えます。
また、各等級間の格差は、行動等級で既に格差があることに配慮するとしても、職務等級へのモチベーション維持を考えれば、最低3万円以上に設定すことが望ましいと考えます。
職務給の設定例
まとめ
この記事のなかでは、つぎの4つのステップのうちの、3stepまでをみてきました。
普段から会社で行われている従業員の評価を明確に規則した、「人事評価」に基づいて、給与を決定することは、必ず会社の利益になります。
現状を放置するのではなく、一番身近な給与から整備することで、会社全体の収益や従業員のモチベーションアップ、さらには退職金などの大きな資金のコントロールにもつながります。